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VOL.217『食の安全性について』 [食べ物]

◆食品による中毒の可能性
 人が生きていく上で食物は必須です。しかし実は食物の中には様々な毒物(生体異物)が含まれており、この毒物を研究するのが中毒学です。中毒学では内閣府の食品安全委員会が科学的見地に基づいて食品のリスク評価を行います。毒物は、カラダの健康維持の機構に介入し毒性を発揮します。食品の安全性を守り、中毒の発生を防ぐために日本には様々な機関が整備されており、世界的にもWHO(世界保健機関)やFAO(国連食糧農業機関)など国際機関が設けられています。
 食について『安全性』は科学的に評価できますが『安心』は個人の知識や感情・心理に左右されます。今日、食品の生体に与える障害や、その毒性を発揮するメカニズムを分子レベルまで分かっている毒物は少数で、大多数は未解明です。つまり、中毒の可能性を秘めているものの方が多いということです。

◆毒物とは
 毒物は大きく分けて、①自然毒(動物毒・植物毒・カビ毒・細菌毒)、②合成毒(工業化学薬品・医薬品・農薬)、③無機毒(重金属)、④その他(放射線)の4種類に分類されます。これらの多くは食品に含まれ、口から消化管に侵入する場合がほとんどです。つまり、毒を摂取するリスクが圧倒的に高いのが食品だということです。そして食品に起因する健康障害を食中毒と呼びます。食品に付着した細菌やウイルスによっては短時間で症状が現れることもあります。そしてその毒性や効果量は個体間で大きく異なります。
 しかし、カラダには薬物代謝酵素が存在し、これを使って毒物を無毒化・低毒化して体外に排泄する解毒システムが備わっています。
 食品は口から消化管に入り、食道から胃を経て消化・分解され小腸で吸収されます。必要な栄養素は各種輸送タンパク質によって吸収されます。タンパク質は吸収すべき分子の化学構造を認識し、細胞膜の脂質部分に取り込まれる以外に侵入経路はありません。一方、水溶性分子(栄養素)は細胞膜からは侵入できません。つまり、脂質は水と混合しにくく、水に溶けやすい分子とも混ざりにくいのです。食品添加物は水溶性が高いため小腸からは吸収されません。脂質性物質は小腸の細胞膜に侵入すると血液中に入り、門脈を介して肝臓に到達しますが、小腸や肝臓は解毒システムを備えています。また、血液中に入った毒物は腎臓の糸球体でろ過され尿細管から排出されます。つまり、腎臓が正常であれば分子量の大きいタンパク質や糖質・赤血球(出血)などの細胞は尿中には排泄されません。それでも、代謝機構が壊されると解毒できず病気を発症します。

◆水にも注意
 今日、食の安全に関する社会的許容量としてトリハロメタンの毒性が注目されています。水道水を塩素殺菌するために水道水には1リットルあたり0.1mg(0.1ppm)の塩素が含まれていなければなりません。この量であれば病原微生物は生存できません。しかし、気温が高くなると塩素が多く投入されるようになります。その塩素と有機物の反応によってトリハロメタン分子が大量に生成されます。体重60kgの人が1日2リットルの水道水を一生飲み続けると10万人に1人の確率でガンを発症するという報告があります。また、WHOは2011年にクロロホルム規制値を0.3mg / リットルに、2015年4月には水道水の水質基準に一般細菌・カドミウム・鉛・ヒ素・6価クロム・カドミウム・ベンゼン・亜硝酸窒素・テトラクロロエチレン・トリクロロエチレンなどを加えて、水系伝染病を劇的に減少させました。中毒の観点から見ると食品だけでなく、水道水にもリスク管理の発想を考える時代になってきたようです。

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VOL.216『食べ物の不思議の科学』 [食べ物]

◆お餅の秘密
 日本人に馴染みの深い食べ物の一つに餅があります。つきたての餅は軟らかいですが時間が経つと硬くなります。これは餅の成分であるデンプン(糖質)の構造が変化するせいで、時間が経過して乾燥するからではありません。
 デンプンは、房状構造のアミロペクチンと直鎖状構造のアミロースからなります。もち米は80℃のお湯で15〜20分温めると、つきたてに近い食感になります。これは房状構造が開いて内部に水分が入り込むためです。それが冷めると再び房状構造が閉じて硬くなります。また、焼いて温めても房状構造が開くので軟らかくなりふっくらします。これはアミロペクチンの房状構造が緩み、気泡の中の気体が加熱されて膨張するためです。電子レンジは一気に水分が沸騰するので餅には適しません。
 餅の食感はデンプン構造だけではなく、米の破砕片や細胞壁、気泡の割合で大きく変化するので、杵と臼でついた場合の方が市販の餅よりも食感がよくなります。市販の餅は細かい組織片や気泡・水分量が多いので食感が落ちるのです。冷凍保存した場合は房状構造が広がりアミロペクチンがそのまま固まります。

◆肉の美味しさの秘密
 次に、肉の美味しさは何で決まるのでしょう。牛肉・豚肉・鶏肉の中で一番硬いのは牛肉です。硬さの原因は筋繊維の太さで、筋繊維が太い牛肉は硬く、ついで豚肉、鶏肉の順になります。そのため牛肉は数週間冷蔵庫で熟成させます。すると筋繊維に含まれる酵素が筋繊維の結合を分解するため軟らかい肉質に変化します。肉の美味しさは、肉に含まれる脂肪やアミノ酸に起因します。豚肉は牛肉や鶏肉に比べてイノシン酸やグアニル酸などのうまみ成分が多く、牛肉には焼くことでうまみ成分に変わるアミノ酸が多く含まれています。和牛には和牛香と呼ばれる甘い香り(ラクトン)が含まれており、この香りは80℃で最も強くなります。80℃はすき焼きやしゃぶしゃぶの最適温度です。
 肉は脂がのっていると美味しいと言いますが、実は脂肪の質と香りのバランスが重要なのです。美味しい肉の脂肪(脂肪酸)には低温で溶けるオレイン酸が多く含まれています。オレイン酸量が多いほど口どけが良く美味しくなります。鶏肉の脂肪は牛肉や豚肉に比べて低温の30〜43℃で溶けるので、冷えた体でも口の中で溶けて美味しく感じます。
 また、牛肉はオスとメスで味が違います。オスは男性ホルモンによって肉が臭くなるので加工食品に使われます。また健康に発育していない場合は水っぽく、筋繊維が弱く肉質が悪くなるので美味しくありません。餌にビタミンAを含ませて肉質を変え、肉に脂肪が入りやすくなるように工夫した肉もあります。

◆納豆の科学
 次は日本伝統の発酵食品である納豆の科学です。納豆は煮た(蒸した)大豆に納豆菌を加え、16〜24時間ほど発酵させます。納豆菌は土の中の稲わらなどに分布し、バチルス属という菌種に含まれます。納豆菌の胞子は熱に強く、熱湯で30分程度熱しても死滅しないので、稲わらを熱湯で煮沸し、大豆の納豆菌以外の細菌を殺して作ります。納豆の最大の特徴であるネバネバの正体は、グルタミン酸が1万個ほど結合したポリグルタミン酸(PGA)です。納豆をかき混ぜるとPGAが糸を作りますが、グルタミン酸が増えるわけではありません。
 納豆は高タンパク質、低脂肪で大豆の80倍のビタミンKを含んでいます。ビタミンKは骨を作りますが、血栓を溶かす効果を弱めるので、心臓の人工弁の薬を飲んでいる人は食べられません。2010年、納豆のゲノムが解読され、新しい品種改良や健康効果が期待されています。
 毎日食べる食品を美味しく食べながら、それぞれの食べ物の特徴を知ることで健康的かつ人生が豊かになれば幸いです。

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